“空間好き” ならきっと夢中に! 塩田千春のアート展 @六本木ヒルズ
子供のころに野山で探した、木の枝葉を集めてカラをつくるミノムシって面白かったですよね。
生まれも育ちも都会っ子さんは知らない?
ドラえもんのスモールライトでちっちゃくなって、あのカラの中に入ったら冬は暖かそう。
小学校の授業で飼っていた、絹糸をつくるカイコの白いマユも好きでしたねー。
ほわほわして丸くて。
「これから糸が取れるんだ!」
って不思議さもあり。
あとはそーですね、あやとり遊びでしょうか。
おぼろげな記憶では、女の子のほうがスピーディに手を動かして器用だったような。
カタチが次々に変わるのにワクワクしました。
今回ご紹介するのは、森美術館のアート展覧会、
「塩田千春展 魂がふるえる」
この作家さんの紹介記事って、「生と死」うんぬんの重い文脈で語られるじゃないですか。
それが正統派(または作家の制作テーマそのもの)の解説なのでしょうけど。
なによりもこの展覧会は、
「人の手でつくり込まれた空間に体が包まれる、デジタル時代をぶっ飛ばす心地よさ」
が超絶楽しかったです!
子供時代の感覚に戻ったような体験もたくさんありましたし。
ただどーでしょう、怖い……ですか??
驚異的な量の赤い糸を張り巡らせた部屋。
会場入りしてほどなく現れる巨大な展示です。
いきなりのクライマックス!
もったいつけずに目玉の展示を見せちゃう姿勢がすごいステキです。
来場者は皆一様にびっくりしてました。
その様子は、この記事の最後に。
(ちょっと皮肉な話もしてますが)
作家にとっての赤い糸は、日本人にはお馴染みの赤い糸のようです。
人と人との結びつき(縁)です。
むろん体内を流れる例のやつでもあるらしいです。
私は「ずっとここにいたい」派なのですが、皆さんはどうでしょう?
「苦手かも」って人もいそうですね。
作品の価値判断とは別の、自分の心のあり方として。
さて、続いて(資料と映像の、かなりシリアスなコーナーを経て)黒の部屋に移動します。
とその前に、赤から黒へとつながる展示が。
これすごい好きでした。
(右の四角形は別作品です)
赤糸が「人の結びつき」、黒糸は「宇宙」らしく。
作品の意図はすみません、私には謎なのですが、惹きつけられる魅力がたっぷり。
さらに、多くの人がスルーしそうなのが、
赤糸が会場の壁につながっていること!
これ結構大切なディテールだと思ったんですけどねー、よく見てないと気づかないかもですねー。
さて、黒の部屋に入る前に閑話休題といいますか、今回で唯一の自然光での展示の部屋があります。
(来場者の心の揺れ動きを深く考えた、人に優しい展覧会だと思います、ここ)
塩田さんが集めたおもちゃがわんさか。
これにも赤い糸が。
窓の外の高層ビル群が同じサイズのミニチュアに見えてユーモラス。
「計算されてるよな〜」と。
この部屋で若い女性が作品を目にして思わず、
「か……ゎ…」とつぶやいてました。
たぶんこの人は、「カワッ♡」と叫びたかったのでしょう。
でもドロっとした表現も多いこのアート展の空気を読んで、場にそぐわないと考えて小声になった。
でもさ、私もこれ、カワイイと思いましたよ。
人形の首とかじゃないし。
カワイイものはカワイイと言っていいと思います、うん。
そして続いて、もうひとつのクライマックスが。
塩田さんが子供の頃に、隣の家が火事になり、その後燃えたピアノが屋外に置かれていたそうです。
それを美しいと感じる気持ちと心の曇りとが同居していたそうなのです。
この展示、実際に中に入ると「得体のしれない美しさ」を実感すると思います。
決して怖くなく、エレガント。
演奏者も観客もいない独演会。
ホラー的ではあるけれど、そこまでホラー色は感じなかったんです。
(人によるか……)
つくり込みのスゴさには誰もがうなるでしょう。
交差して絡み合う紐。
心に響きます。
こうした空間を、CGのデジタル映像を投影して生み出すのが現代。
新発想のモノづくりって創造的な活動だと思います。
でもこのアナログな、頭でなく肌が感じる立体空間の中に立つと……、
「しばらくデジタル世界と距離を置きたい」
と思っちゃいましたよ。
パソコンでこの文章を打ち込んでるのに。
さて黒の空間は、隣の展示物まで続いてまして。
白のドレスが入った箱には不思議な仕掛けが。
ぜひ会場でお確かめください。
(私は謎が解けず…… ← 頭ワルい)
ではいよいよ、さらなるクライマックスを。
(幾つあんだよっ)
浮遊する旅行トランク。
奥に向かって階段のように上がっています。
全部ではなく幾つかのトランクだけがゆらゆらと動いているのが不思議で、異空間にいざなわれます。
「人はどこから来て、どこに行くのだろう」ということなのでしょう。
思わず上に飛び乗り、ひょいひょいとトランクを駆け上がりたくなりました!
そう、あの傑作エンタメSF映画「センター・オブ・ジ・アース」のように。
(傑作? ← そうだっ)
磁力を持つたくさんの大きな石が石畳のように空中に浮かび、谷にかかる橋を形成してその上を子供が渡るシーンがあるのですが、そのドキドキ感に似た光景。
この部屋の来場者は笑顔でいっぱい。
理屈じゃなく皆が楽しんでました。
ロジックはあとから来るもの、それがアートの力ですね。
でもって、
トランク展示の最後(端っこ)。
ここをじろじろ見てるのは私くらいでしたが w
トランクと結ばれていない赤い糸も多数下がり、このボリューム感を生み出しています。
ではここでいったん、会場の入口付近まで戻りましょう。
「この展覧会をよく表している作品だな。会場入りしてすぐの場所にあるのも納得」
と、個人的に感じた2つです。
彫刻の手。
赤い糸を持った手。
何をか言わんや、です。
「塩田千春展」以外の六本木ヒルズ・森タワーの展覧会は、「進撃の巨人展FINAL」と「PIXARのひみつ展」。
それゆえ(?)、塩田千春展の来場者は、女子、女子、女子でした。
私が行ったのが8月の平日で、学生の夏休み期間ということもあり若い女性が多かったです。
フツーに女子大生っぽかったり、ギャル(死語)ふうだったりも。
なぜじゃい?と思ったらですね、判明しました。
理由は、「映える(バエる)」から。
インスタ映えです。
もはや作品は、自撮りの背景にすぎず。
1950年代のアメリカ抽象アートの巨匠ジャクソン・ポロックの心を打ちのめした例のエピソードを思い出しちゃいましたが。
ファッション雑誌「ヴォーグ」が彼の絵の前にポーズをつけたモデルを立たせ、
自身の作品がモデルを引き立たせる壁紙にしか見えなかったことに苦悩してアルコールに溺れた話。
でもしかし!
多くの人が私なんかよりもじっくりと、パネル写真も映像もチェックしてました。
(はしゃぐ人が多いのは、この部屋だけ)
理由は何であれ、アートに限らずカルチャーへの入り口は大きく開かれてるほうがいいですから。
裾野が広がることが大切なんですよね。
若い子のファッション離れが顕著な現実に、「ファッション界の未来ってどーなるんだろ」と焦る一介のファッションライターは、この展覧会でもいろいろ考えさせられたのです。
おっと、展覧会の会期は、10月27日(日)までっ。
photos © 高橋一史
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